『安彦良和対談集 アニメ・マンガ・戦争』 5

最後に「番外BATTLE」として掲載されているのが大塚英志さんとの対談です。安彦さんによると「この男がガリガリに痩せたバイト学生だった時から僕は知っている。なにせ最初の担当編(編集者)だったんだから…とにかく頭よくて口がたっしゃで、『アンタ程度のヒトなら全部判りますヨォ〜〜』って顔してて、イヤなヤツだなァと思ってたら、日本一のサブカル評論家になんかなりやがった」ということで、かなりのクサレ縁のようです。そんなわけで、この対談だけは遠慮会釈なしの対論、というより激論となっております。

90ページ以上に渡って繰り広げられた激論なんですが、議論がかみ合ってないため、内容的には堂々巡りっぽくなっています。大塚さんは自分の立場を「自分は保守だが、保守の中でも左派であって、(小泉政権当時の政治潮流から言えば)左翼である」と規定した上で「日本の政治や大衆の政治意識を少しマシにするためには、積極的に活動をしていかなければならない」と言っています。運動というのは、街頭デモであったり、社民党や共産党に投票することであったり、自衛隊の海外派遣違憲訴訟を起こすことだったりするというわけですね。そして9条を護り、戦後民主主義を肯定することだと言います。

それに対して、安彦さんは「そういう活動がいかに無力か、方法論が間違っていたかということを俺たちの世代は身をもって体験してきた。今そんな活動をしても見るからに昔と同じで、失敗すると分かっている。だから訴訟や街頭デモもやらないし、投票にも行かない。自分はもの書きの端くれだからものを書くだけだ」と、かなり対立する姿勢です。「何もやらないとは言ってないけど」とは付け加えまてるんですが。

大雑把にまとめるとそういう双方の主張があるんですが、ぼくの感想としてはどちらも極端すぎますね。安彦さんは「羹に懲りて膾を吹く」の典型としか見えないし、大塚さんのほうは、いわば小林よしのりの対極をやってみようとした、ということなんだろうという臭いがプンプンとしています。

小林さんが「右翼マンガ」を書いて、若者を中心に多くの人を巻き込んで政治的雰囲気の潮流を起こして行った、ということのアンチとして左翼運動を起こして行こうというのがチラチラと見えてきます。小林さんのやったことの一番の目的は当然「売れること」なわけであり、そのためにハーメルンの笛吹きのように、免疫を持たない若者たちを、後戻りのできないところまで連れて行ってしまったというのは否定できないことでしょう。大塚さんがやっているのはその逆であって、結局小林よしのりのようには売れなかったんですが、大塚さんにそういう胡散臭さが漂うことは安彦さんも対談中にそれとなく指摘しています。

それから、大塚さんは「自分の立場は橋本派に一番近い」と言ってるんですね。確かに戦後民主主義の枠組みは日本の経済成長の中では幸せを形作ったのだろうと思いますが、これは経済成長の基盤があっての話で、それを何とか護持しようとしたのが平成初期の長い不況だったはずです。また日本の借金も加速度的に増えていったわけですよね。経済の基盤が全く違う時代に入ったのに、その上に乗っていた政治的枠組みをそのまま維持したいと大塚さんが思ったとしても、それは無理があるのではないでしょうか。

もちろん、その後に来た新自由主義の嵐に対する危機感があったのは理解できます。この対談は2004年のものですから、その真っ只中にあったわけです。安彦さんが「柄谷行人が、3、4年後には分かるといっている」ということを紹介していて、大塚さんは「それは柄谷のような知識人が何もしない怠慢のアリバイを作るために言ってるんだ」と批判しますが、今、2009年となっては、確かに3、4年後には分かりましたね、ということも言えるわけですね(笑)。それは一つの慧眼だと思います。

そして、安彦さんはガス抜きにはつきあっていられないということで選挙に行かなかったのですが(実際には最近民主党に投票していたそうですが)、5年後に政権交代が起きてしまいました。その事実からするとやはり安彦さんは目的に対してあきらめすぎなのかもしれません。

新自由主義が崩れた今、大塚さんと安彦さんが必死に議論していたようなことのかなりの部分が意味をなさなくなったと言っても過言ではありません。大塚さんも安彦さんも民主党を積極的に応援しているわけではないのですが、とりあえず自民党が下野したことは間違いないのですし。そういう意味では、安彦さんが言っているように、昔の学生運動のようなことをなぞってみても結果は見えているわけで、必要なのは新しい理念です。また理念だけでなく、すぐに具体的な政策が必要なんです。

ポピュリズムに乗っかった状態で政権をとった民主党は、いまだポピュリズムに縛られていると思います。そのため有効な景気対策を打ち出せず、民主党応援団である森永卓郎にすら「このままでは焼け野原になってしまう。民主党の長期的政策はいいけど、その前に日本経済が壊滅する」といわれる始末です。影の首相こと小沢一郎にはちゃんとした理念と具体策はあるのか?日本の命運はこの人にかかってしまっているわけですが、日本が破壊されるよりは小沢に勝算があることを祈るしかないのです。

テーマ : アニメ・感想 - ジャンル : アニメ・コミック

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