『安彦良和対談集 アニメ・マンガ・戦争』 4

再び「戦争編」へ戻り、小林英夫さん、福井晴敏さん、矢作俊彦さんです。

小林英夫さん:早稲田大学大学院の教授だそうで、満州研究の第一人者ということです。小林さんのほうから『虹色のトロツキー』を書いた安彦さんに対談の申し入れがあったそうです。まあ、小林さんとしては漫画家と対談することで著書が売れれば良いなという思惑もあったんでしょうけど、安彦さんじゃそれほど効果はないんじゃないかと…。これは『ガンダムエース』ではなく『潮』に掲載されたものです。

安彦さんが『虹色のトロツキー』を書いた動機は、もう従来の枠組みで満州を捉えている場合じゃないんじゃないか、という問題意識です。従来は、満州建国を「恥ずべき愚行」と考え、「残留孤児」のような悲惨な物語を告発する社会正義的立場、そしてもう一つ、活劇や謀略ものとして満州を描く立場があったと言います。安彦さんはそのどちらでもないものを書きたかった、ということなんですね。それで、当時の満州を知る老人たちに直接取材したり、また改革開放直後の中国にも行って現地を見たりと、相当な意気込みで書いたことが語られています。

こういう目の付け所はなかなか良かったんじゃないでしょうか。どうしても政治的立場から語られてしまう戦中戦前の歴史的事象を、もっと事実に基づいたフィクションとして表現するというのはとても意味があると思います。ただ、小林よしのりのような、売るためにはハーメルンの笛吹きにもなる、という開き直り系のものに比べて圧倒的にマイナーなまま終わってしまうのは残念ですね。

安彦さんが1991年に中国・旧満州地区を訪れた際の紀行文もあり、急速な発展に至る直前の中国のリアルな姿が描かれていて面白いです。その時通訳を頼んだ中国人の女性は、その後日本に来て結婚し帰化したそうです。良い話なんだか悪い話なんだかよくわかりませんが(笑)。

福井晴敏さん:福井さんは、インターネットの普及によってジリ貧になっていく出版業界の中で、積極的に売るための方法論と、作家としてのテーマや腕もちゃんとある、というのが安彦さんの評価のようですね。ターンエーガンダムのノベライズなども引き受け、とにかく売れなきゃ言いたいことも言えないというわけです。

矢作俊彦さん:矢作さんもまた、インターネットが破壊していく出版業界の中である種諦念をもって眺めているようなんですが、ただ「Eペーパーが紙にとってかわる」というのはちょっと見込み違いじゃないでしょうか。この対談は2003年時点のものですが。矢作さんは「Eペーパーが普及したときにね、初めて僕ら書き手は、自分の知恵に値段がつくわけですよ」「そうなると面白いですよ。絶対値段が違うんだから。『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』読みたいって奴のほうが僕の小説読みたいって奴よりたくさんいるだろうし、値段は高くなるわけですよ」と言うんですけど。どうもそんな感じはないですよね。デジタルデータに希少性というものはないんですから。たとえEペーパーが普及したとしても、高い値段のものは誰も読まず、100円や300円、タダのものや違法ダウンロードのものを読むに決まっています。でもやっぱり紙には圧倒的にかなわないですよ。

とにかく出版業界の厳しさはひどいようですね。それは福井さんも矢作さんも共通しています。

テーマ : アニメ・感想 - ジャンル : アニメ・コミック

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